
修了証の写真
子どもたちに学びなさいと言うからには、大人も学び続けないといけない。その信念のもと、私はUniversity of the PeopleでMaster’s of Educationのコースで学び始めました。開始したのは2020年6月。そして、3年5ヶ月後の2023年11月、無事に卒業することができました。今回は、そのコースを通しての振り返りを共有したいと思います。
そもそもUniversity of the Peopleってなに?という場合は以前の記事をご覧ください。
Master’s of Educationコースを終了するためには13単位を終わらせる必要があります。その一番最後の2つの授業は卒業研究に関連したものです。この2つの授業の内容を振り返りながら、コース全体の振り返りを書いていきます。
1つ目の Research in Educationという授業では、研究の方法を学び、実際に問いを決めて、先行研究を確認し、データを集めることまで行います。そして、その次の授業 Applied Professional Practiceにて、集めたデータを分析し、考察を書きます。ちなみに、私は研究テーマを「AIと教育の未来」にしました。生徒たちへのインタビューから得た質的データ分析を通じて、AI技術が教育現場にもたらす潜在的な変革についての考察をまとめました。
このコースでは卒業研究の発表はありません。その代わりに、今までのすべてのコースでの学習を振り返ったResearch and practice portfolioの内容を15分間で発表しなければなりません。個別に学ぶオンライン大学院であり、発表はどうするかというと、自分の様子とプレゼンテーションの画面を一緒に録画して、その動画ファイルを提出します。

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University of the people(Master of Education)で学んだこと
ここからは、大学院の授業全体で学んだことを共有するために、私のResearch and practice portfolioの発表内容を簡単にご紹介します。今までに大学院で学習したすべての授業を振り返り、私が印象に残った3つのカテゴリーを決めました。それは、以下の3つです。
Inclusive Education (インクルーシブ教育)
Assessments in Lessons(授業評価)
Educational Philosophy (教育理念・哲学)
1.インクルーシブ教育
色々な授業の中で、すべての生徒が成長するための環境を用意することについて繰り返し学習しました。そして、それらの授業の中で多く登場したのが、学びのユニバーサルデザインでした。主に、このサイトThe UDL Guidelinesの中で紹介されている学びのユニバーサルデザインの表は取り上げられる事が多かったです。日本語にも翻訳されたものを掲載します。

図:CAST. (2023). UDL Guidelines.
自分が独立して教室を開いた理由の1つは、学校だけでは支援できない生徒がいると感じたことでした。この大学院で学んでいた時にも、シンガポール日本人学校中学部に特別支援学級を設立するという活動に関わったりしました。このような理由もあり、学びのユニバーサルデザイン、そしてインクルーシブ教育に関心を持ちました。ここでの私の学びを簡単にまとめると、支援が必要な生徒が同じ教室にいることを想定することが、すべての生徒にとって分かりやすい教授方法の工夫につながるということです。また、支援が必要な生徒を区別するのではなく、一緒に学ぶインクルーシブな環境を作ることで、すべての生徒にとって効果的な授業ができるということです。それと同時に、今までの私の教えてきた生徒たちの中にも、より支援が必要な生徒がいた可能性に気づかないまま授業をしていたことを反省しました。
2.授業評価
このコースで学んだことで、今まで私が現場で実践としてやってきた授業内での評価も、明確に分類されて説明できるようになりました。その中でも以下の評価の分類方法が印象的でした。シンガポールのインターナショナル校でもよく使われている2つは、
Summative assessment (総括的評価)
Formative assessment (形成的評価)
ですが、これではなく、以下の評価の分類です。(Earl & Katz, 2006)
Assessment of Learning(学習したことの評価)
Assessment for Learning(学習のための評価)
Assessment as Learning(学習としての評価)
まず、一番分かりやすいのが Assessment of Learning(学習したことの評価)です。これは定期テストや、レポートやプレゼンテーション、提出物への最終評価です。模試や共通テスト、入学試験もこれに含まれるでしょう。学習したことを習得した度合いを測るための評価です。伝統的な学校では、この評価ばかりがされていたような気がします。
2つ目は、Assessment for Learning(学習のための評価)です。これは、授業者が授業を改善するために行う評価です。授業前に生徒たちの事前知識などの状況を確認するために行ったり、授業後に次の授業を改善するために行ったりする評価です。具体的には、単元の最初にやるクイズや、年度の初めにやる学力テストなどです。
3つ目の Assessment as Learning(学習としての評価)は、生徒が自分で評価することで、評価することを通して学習しようという考え方です。生徒が学んだ内容を自分で確認することで、生徒たちのメタ認知を高めることができます。授業者は、生徒が自分の学習過程を振り返り、批判的に分析することを支援します。具体的には、授業者が生徒に事前に評価ルーブリックを提示して、それをもとに生徒が自分で学習目標を達成していくという授業などがあげられます。
3.教育理念・哲学
この大学院のコースで学んだことで、自分の教育への思いが明確になりました。その中でも、以下の2つの文章は印象的でした。
学習の定義
「学習とは、練習や他の形態の経験から生じる、行動における永続的な変化、または与えられた方法で行動する能力の変化である。」(Schunk, 2012)
「教師は変革者(チェンジ・エージェント)である。そのために必要な4つの能力は、個人的ビジョンの構築、探究、習得、協働である」Fullan (1993)
そして、発表の最後には、私の教育哲学を修正したものを提示しました。
私の教育哲学
「生徒が主体的に考え、行動できるように教育する。」
生徒に学ぶ理由や目的を考えるように促し、学習に対する内発的動機を引き出すための問いかけをする
テクノロジーを活用し、生徒の多様な特性に合わせたユニバーサルデザインレッスンを用意する
生徒の予備知識を分析し、生徒が自分の成長を実感できるよう、個別最適化された教材を提供する
生徒が学んだことを新しい状況に適用する必要があるような本物の課題を設定する
授業のインプットの段階は生徒の探究心を刺激するアプローチで行い、応用の段階は生徒が自分でプロジェクトに取り組むアプローチで行う
生徒が外部の組織や社会と協力する機会を設定する

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University of the people(Master of Education)を学んでみた感想
オススメ度
70/100
メリット
オンラインで、自分の好きなタイミングで学ぶことができる(しかも、リアルタイムの課題は出ないので、時差などを考慮する必要もない)
コストが安い(卒業までの学費の合計は、1単位200USD×13+入学費60USD=2660USDでした)
日本の大学の教職課程で学んだ内容を英語で復習しつつ、さらに新しいことを学ぶことができる
生徒たちは、世界中の現役の先生が多いので、教育実践事例や問題点を共有したり、教育環境の違いなどを知ることができる
英語のリーディング力とライティング力は伸びる
デメリット
対面で通って学ぶ大学院と比べると易しい(卒業研究などを通いながらやると、もっと多くのデータ量や深い考察を求められるはず。※個人的な感覚です)
課題の多くは相互評価であり、同じ授業をとる生徒たちの状況によって、評価が左右される部分もある(私は相互評価をあまり気にしないようにしてました)
生徒の質はバラバラであり、グループワークが全く成立しない場合もある
他の生徒との自由な交流はあまりないので、友人を作るのは難しい(グループプロジェクトのときに数回ビデオミーティングしただけです)
追加で感想ですが、私が常勤で学校の教員をやりながらこの大学院のコースを終了できるかと聞かれると、正直なところ微妙です。最後の方は慣れてきて、毎週の課題にかかる時間は、ディスカッション課題:4〜5時間、ライティング課題:5〜8時間、ポートフォリオ課題:1〜2時間、他人の課題の評価:1時間でした。つまり、合計で13時間程度を1週間で確保しなければなりません。
学校で教員をしていたときは、授業準備、教材研究にかなり時間をかけていました。教員として働きながらだと、おそらく大学院の課題よりも授業準備を優先してしまい、課題のクオリティが落ちていたかもしれません。よって、常勤で働きながらも、自分に厳しくでき、毎週課題をやる時間を確保していくことができる人には、University of the peopleのMaster of Education はオススメできます。
大学院について気になる方はお気軽にお問い合わせください。私の経験でお答えさせていただきます。

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参考
Earl, L., & Katz, S. (2006). Rethinking classroom assessment with purpose in mind: Assessment for learning, assessment as learning, assessment of learning. Manitoba Education, Citizenship and Youth. https://www.edu.gov.mb.ca/k12/assess/wncp/full_doc.pdf
Fullan M. (1993). Why teachers must become change agents. Educational Leadership, 50(6). pp. 12-17. Retrieved from http://www.ascd.org/publications/educational-leadership/mar93/vol50/num06/Why-Teachers-Must-Become-Change-Agents.aspx
Schunk, D. H. (2012). Learning theories: An educational perspective (6th ed.). Boston, MA: Pearson. Retrieved from: https://www.researchgate.net/file.PostFileLoader.html?id=53ad2847cf57d75c068b45c5&assetKey=AS%3A273549456019456%401442230680395
The UDL guidelines. CAST. Retrieved April 30, 2021, from https://udlguidelines.cast.org/?utm_source=castsite&lutm_medium=web&utm_campaign=none&utm_content=aboutudl
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